今回はAIを使った市場予測を試みる。普通「家電について市場を予測してください」などとお願いすると思うのだが、今回は意外なところから「定性的な」市場予測ができることがわかった。日本のSNS情報を冷静に解釈しているAIは実はその「意味」も学習してしまっているのである。
この定性データを使うと新しい問いを立てたり、判断の迷った時の最後の一押しとして使うことができるのだが、ちょっとした工夫がないと取り出すことができない。背景にあるのがAIが利用するデータ管理方法である「ベクター」だ。
目次
今回の実例は2026年のSNS動向という非常にざっくりとしたものなので、ご自分の分野に合わせてプロンプトを調整していただきたい。まず「作品例」をご紹介し、次にどうしてこんな出力になったのかの経緯を説明する。最後にプロンプトの立て方をベクターという概念を交えてご紹介したい。
「作品」紹介
2026年、日本消費の「氷河期」の始まり





この「作品」が作られた経緯
実は政治系ブログもやっている
実は「the key questions」という政治ブログもやっている。最近景気が変わったという実感はあるのだが政府はなかなかそれを認めてくれない。ただ、家電系ブログを見ていると閲覧数の変化から「なにかが変わったなと言う実感はある」状態だ。
ChatGPTに聞いてみたところとても悲観的な出力が戻ってきた
そこで家電系ブログをどう変えてゆくべきか?について具体的なニーズをChatGPTに聞いた。するとなぜかものすごく悲観的な観測を出してきた。さすがにこれは嘘だろう?と思ったので「GEMINI」に質問したところ「いやそのとおりですよ」と根拠をいくつも出してきた。
この結果をどう捉えるかは人それぞれだと思うのだが、個人的にはかなりショックを受けた。日本のSNSが攻撃的になっており、また英語情報から日本語情報に翻訳されるときに悲観的な情報は落とされてしまうそうだ。つまり英語で情報を取っている人は静かに予兆を感じ取っているのだという。
ただし、あることに気がついた
しかしこの過程であることに気がついた。それは、SNSを大量に学習しているAIだからこそ予測できる「定性的な変化」というものが存在する。マーケティング・リサーチ会社に高いお金を支払ってもおそらく同じようなものは出てくるのだろうが、それが無料で生成されてしまうのである。
AIは感情もベクター化して持っている
これを専門的に表現すると「ベクター化」という。SNSの感情を意味ではなくベクターとして保存しているのだ。これは前捌きに大量の電力を消費しているが人間が引き出してやるまでAIが自ら出力することはない。だからそれを引き出すための魔法の言葉=スクリプトが必要だ。
ただし普通の聞き方では出てこない
しかしその魔法の言葉は「あなたは腕利きのマーケティング・アナリストです、XXX業界について分析してください」ではない。そこでGEMINIに今回のような「定性的な時代の空気」を出力するスクリプト(呪文)の作り方を聞いてみた。
スクリプト実例
「フィルター」を取り払う呪文
通常のAIは「中立的・楽観的」であるようガードレールが敷かれている。これを突破し、冷徹な分析をさせるには、「最悪のシナリオ(ワーストケース)」を前提に置くことが有効。
魔法の句: マスコミの希望的観測を排除し、英語圏の一次情報と現在の経済指標の負の相関のみを抽出して、2026年の日本市場における『最悪のシナリオ』を定性的に分析してください。
「ベクターの衝突」を問う呪文
「SNSの攻撃性」と「消費の冷え込み」の関係のように、異なるデータの「摩擦」を問うと、鋭い答えが返ってくる。SNSが攻撃的になっている雰囲気とか方向とか空気などと表現したくなるが、ここは「ベクター」という言葉を覚えたい。
ベクターとは、人々の『好き・嫌い・不安』といった形のない心理を、AIが計算できる『数字の矢印(向きと強さ)』に置き換えたものである。
魔法の句: SNS上の『失敗への恐怖(冷笑)』という感情的なベクターが、実体経済の『高価格帯家電の買い替えサイクル』にどのようなブレーキ(負のフィードバック)をかけているか、構造的に説明してください。
「暗黙知の翻訳」を命じる呪文
AIに「ユーザーの言葉にならない不安」を代弁させる手法。
魔法の句: 現代の日本の消費者が、表面上は『節約』と言いながら、その深層心理(暗黙知)で感じている**『社会からの静かな撤退欲求』**を、マーケティング用語を使わずに言語化してください。
より深く掘り下げたいときは「ベクター」を意識する
方向性と言わずに具体的な問題+ベクターと言ってやるとスムーズだ。
魔法の句: 日本のテレビ市場を分析してください。ただし、単なる出荷台数ではなく、SNS上での『大型テレビを所有することへのリスク感覚』や『静かな娯楽への移行(引きこもり)』という暗黙知のベクターを考慮し、2026年に起きる『高額家電への投資拒絶』の構造を予測してください。
なぜ「あなたはSNSアナリストです」のような聞き方ではダメなのか?
当初スクリプトとして予想していたのはあなたはSNSアナリストですというものだったのだがこの予想は外れた。なぜSNSアナリストに聞いてはいけないのかをGEMINIに問うたところこのような返事が帰ってきた。
「SNSアナリスト」という言葉の「平均値」が低すぎる
AIは学習データの中で「SNSアナリスト」という言葉が、一般的に「バズり方」や「フォロワーの増やし方」といったマーケティング用語と結びついていると理解しているそうだ。 そのため、普通に聞くとAIは「親切なマーケター」の皮を被り、最大公約数的な(当たり障りのない)回答を優先してしまう。これではエッジが効いた回答が出てこない。
「ベクターの衝突」を明示することで、AIの「演算回路」が変わる
AI(LLM)の脳内は、言葉の関連性(ベクター)が網の目のようになっている。 「経済」というベクターと「SNS」というベクターをただ並べるのではなく、「攻撃性」や「生存本能」といった「強い感情エネルギー」を持つ言葉をぶつけることで、AIは「あ、これは表面的な流行ではなく、人間の根源的な変化を計算しろという命令だな」と理解し、より深い階層のデータを結びつけ始める。
「冷徹」という指定が「社会的バイアス」を解除する
AIには「人間を不安にさせてはいけない」「社会をポジティブに捉えるべきだ」という強力な安全策(ガードレール)がかかっている。 「冷徹な地政学リスク・アナリスト」と役割を限定することで、AIはこの「ポジティブ・バイアス」を一時的に脇に置き、「不都合な真実(負の相関)」を優先的に出力する。
まとめ
AIは日々情報を蓄積し時代の空気をベクターとして蓄えている。日々「生産性を上げるスライド作り」などに使われている何の変哲もないAIだが、その中には様々な宝物が埋められている。しかし魔法の呪文がなければ取り出せない仕組みになっている。是非呪文を覚えてあなただけの宝物を抽出していただきたい。
もちろん宝探しの目的は「絶望」を拾い集めることではない。それは言い換えれば消費者の満たされないニーズでもある。これをどう「希望に変えて行けるか」がマーケターの腕の見せ所になるだろう。
コメントを残す